察しないということ

その道は私も通ってきた道だ!

4月の中旬になりました。
新しく入ってきた新人と会話していて「これが去年のオレかぁ」から始まり「今年の新人はダメだなぁ」という社二病に羅患する前に、ちょっと、思い返して欲しいので、その話。

多分、最初のうちはいかにも「新人教育!」ってオーラがヒシヒシと感じられるので、新人側も、周囲の先輩たちも、教育する感じで話しているよ、って了解があるからある程度なんとでもなるのですが。
そのうちに、先輩たちには気付いて欲しいわけです。

「察しないことの重要さ」と、「察しないヤツへの対処方法を伝えること」の二つです。

言い換えれば、「相手と情報を共有した上で質問する技術」と言い換えても良いかもしれません。

こちらが察すると、相手は楽をする

コミュニケーションというものは、相手と自分の関係性に依存します。

例えば私と友人との間の会話では、前提情報はかなり大胆にすっ飛ばしてお話ができます。
友人のAさんが「ハンバーガー食べたい」って言えば、その人の言うたこ焼きが、どのお店の、どのハンバーガーを指すか、くらいは理解しているわけで。
じゃあそこに行こうか、とか、この辺にそのフレッシュネスバーガーあったっけ? みたいな会話ができるわけですね。

でも、私は部下の友人にはなれないし、仮に私が部下の友人になっても、取引先のユーザーは友人になってくれないかもしれません。
だから、ビジネスの会話としては「ハンバーガーが食べたい」というだけでは、ダメなんですね。
フレッシュネスバーガーのアボガドバーガーが食べたいのに「ハンバーガー食べたい」としか言わなかったら、上司はマクドナルドに連れて行くかもしれません。
そこで「こんな豚の餌食べられないですよ!!!!」って部下がキレたって遅いんですね。

ということで、会話の中で「自分の中にある前提条件」はうまく相手に伝えなければならないわけです。

もちろん、何度か仕事をすれば、上司だってある程度分かりますよ。
「あ、この人ヘルシー志向だわ」とか「いつもサラダはドレッシング抜きで食べてるわ」とか。
でも、そのことを上司が察してしまうと、その部下は、いつまで経っても「自分の中の前提条件を相手に言語で理解させる」ことができなくなってしまいます。

ただ、そういう形で仕事をすることを当たり前にしてしまうと、「お互いに慣れ親しんだ関係性」でしか仕事が成立しなくなるんですよね。

だから、上司は、少なくともビジネスの上では、「自分が空気を読めない」という演出しなければなりません。
ここが大切です。

まずは相手の考えを察しないことがスタート

教育であれ仕事であれ、部下に仕事を回す以上、ある程度要件や仕様は抑えているので、部下が疑問に思うことはほぼ把握できているつもりではあるし、その解法も何パターンか準備している事が多いです。
なので、相談されたら、大体は「あ、このことかな」とか「つまりこういう対応をすれば解決するのかな」とか思いながら話を聞いているわけですね。
そうでもしないと経験が浅い部下に仕事を回すことなんてできません。*1

にも関わらず、実際に部下から質問が来ると、途端に私は空気がよめない無能を演じます。
「え? ごめん、そもそも今何してるんだっけ?」
「え? その部分って何がしたいの?」
「え? つまりどういうこと?」
この辺がよく使う質問三種ですね。

これ、すっごい難しいんですよ。
事前に書いてあるとおり、「察している空気」が相手に伝わると、相手は説明の手を抜いちゃうんですよね。
かといって、こっちが本当に何も察していない状態だったら会話ができないので、上手く相手をコントロールしつつ、自分の無能さを演出しないといけないという。

もちろん、この質問だけで「どういうプロセスで説明することが求められるか」を理解してくれる人ばかりだったら楽なのですが、世の中そんなに甘くないので。

次のステップに行きますね。
つまり、「どうやれば空気が読めない相手に理解してもらえるか」を考えるステップです。

筋道を立てて説明させることがゴール

よくいるのが、ただ「自分からはわざと察しないけれど、部下にはその目的を察して欲しい」って言う関係性なのですが、大体そういうのは失敗します。
反感を買うだけでした。

なので、大切なのは、「じゃあ、相手に何を求めているか?」をしっかりと説明すること、です。

そもそも我々の仕事では、最終的にユーザーや管理者に説明する立場になることが多いです。
特に開発が山場になってきて、なんか結合テストしてたらぼこぼこ予想外の動きをしだした時とか。
あるいは導入が終わって、保守フェイズに入った時とか。

そうすると、否が応でも気付くんですよね。
「あ、話通じないな」って。

要件定義の場合は、相手も自分も「同じものを見ている」からそれとなく話が通じている錯覚を覚えちゃうんですよね。
でも、いざ不具合が起きると、「これまで自分と相手が同じ方向を向いていたと思ったら全然違う方を向いてた」って衝撃を受けるんですよ。
この衝撃はかなりのものですし、この状況に至ってから「どうやって話せば通じるか?」なんて考える余裕無いんですよね。
特に仕様の話なんかはその会話だけで数十万単位のお金が簡単に動くわけで、そのプレッシャーの外側に居るうちに、「話が通じない相手の対策」を伝えなきゃいけないわけです。

なので、一切察していないフリをしながらも、以下を説明して貰う必要があります。

  1. 今、自分が直面している問題を知るためにどういう前提知識が必要か
  2. 今の問題
  3. その問題が解決することで、自分は何ができるようになるか

この三つでしょうか。

まぁ、この三つをどうやって伝えるのが良いか、というものは、その人の説明のやり方にもよるので、それはケーススタディになるんですけれど。
少なくとも、この三つを伝えてこなかった場合は、「え? どういう意味?」って言います。確実に。

と言うことで

冒頭の話に戻りますね。

新人のうちは、「質問する側」で、なおかつ「察してもらう側」なので、「察しない」って言うスキルは不要でした。
ところが、後輩を持つと、「質問を受ける側」に変わるわけですね。

大体、若手のうちから仕事ができる人って言うのは、相手を察するスキルが高いか、技術力が人の外側に居るくらい高いかなわけですから、質問されるとついつい丁寧に答えちゃうんですけど。
一歩進んで、「良い質問をするノウハウ」をどうやって伝えるか、という所に目を向けて欲しい、と思います。

ずっとその新人と組んで仕事をするんなら良いですけど、どうせその新人は一年か二年で手を離れるわけですよ。
更にいうと、実力社会を推進している人は、「いずれ後輩に追い抜かれる」ことすらも視野に入れて行動しなければならないですよね。
なので、さっさと私みたいな下っ端の頭を飛び越えて、私の上司、あるいはプロジェクトの管理者、更にはユーザーに質問できるようになって欲しいわけです。

残念ながら、社二病に羅患しちゃった人は、大体において「こういうことも分かんないの? 社会としてはこれが常識だよ」と、露骨にフォローしちゃうんですよね。
察しないフリをしていても、それが露骨過ぎてバレバレで、最終的に新人に上手くコントロールされて情報を引き出されちゃう、って言う。

そろそろ、「質問を受ける技術」、勉強してみてください。

ということで、まずは、察しない練習から。

*1:経験が深い部下の場合は全然別ですけど、今回はその話は除外