いずれこの会社を去るであろう後輩への言葉

うちの会社はあくまで「ハケン」業です

請負業務だとかなんだとか言っても、IT業界において、小規模な会社ができることって言うのは、なんか無茶なパッケージ組んでゲリラ的に殴りこむ一点突破型のWeb系か、SIerの下請のさらに下請、いわゆる「ハケ*1」くらいしか道が無いのかな、と思っています。

結果的に、うちの会社の仕事はコンサルタントになろうがプログラマをやろうが、「いろいろな会社を一定期間で転々とする」ことが求められる仕事です。
特にコンサルタントまでいくと、「開発からは好かれて、現場から嫌われる」ことが正解になる世界ですし。
どうしても色々な会社を転々とすることが求められます。

幸い私は今の現場に数年勤めることができましたが、昨今は開発案件の短期化も手伝って、転々とするサイクルが非常に短くなっているようです。
それでも、私達は「いずれ今の現場を去らなければならない」ことを覚悟した上で、仕事をしなければなりません。

すなわち、私達ハケンは基本的に「定期的に人間関係をリセットする」ことで成立しています。

人間関係をリセットするのは疲れる

別に私は感受性が高いワケではないと思うのですが、やっぱり現場を去ったりと言うのは疲れるんですよね。
携帯電話のアドレス帳に二度と電話することがないであろう客先の課長の電話番号とかが蓄積していくのも疲れるし、飲み会なんかも疲れるわけですよ。

なんにせよとてつもなく疲れます。
私はその対策として、「自分のキャラクターをグッズに転嫁」した上で、現場を去る際に「その設定を同時に捨てる」ことで誤魔化しています。
単純に、「いつもお昼にきつねうどんを食べてる」とか「いつ会いに行ってもキシリトールのボトルが置いてある」とか。
そういうキャラクター設定を、その現場にいる間だけ作っておいて、現場を去る時に、同時にその設定を破棄するんですね。

その儀式をすることで、「前の現場で働いていた深沢は今の自分とは別人である」っていう設定にして生活しているわけです。

実際そうやって距離をある程度離しておかないと、去る時にがっかりしちゃうんですよね。
「あ、結局ハケンなんだな、自分は」みたいな感じで。
このショックは、パフォーマンスにかなりの悪影響を与える事が多いんです。
少なくとも、私の後輩はそういうタイプでした。

人間関係でパフォーマンスが決定する人

私はその後輩としばらく同じ現場で働いていました。
彼は、とても頭の回転が速くて、正直「自分の技術者としての限界」をまざまざと見せつけられた気分にもなりましたが、まぁ、彼の教育を私は担当していたわけです。
研修でも高い成果を出していたので、鳴り物入りで私の下に来た感じでした。

ところが、最初の半年は、全く、何を言っても響かなかったし、現場でもずっとから回ってたんですね。
受ける相談は「自分の技術に自信がない」とか「○○さんとやっていける自信が無い」とか。あ、後者は私のことじゃないよ?
もちろん、彼に対しては少し説明するだけでしっかり理解するし、私が一ヶ月間かけて学んできたことも三日くらいかけて説明すれば私以上の理解度を示すようになったりするわけで。
それだけの技術力と技術に対する嗅覚を持ちながら、「自信がない」って言われたら私も立つ瀬ないわ、とか思うのですが、彼は本当に自信が無さそうで、かなりしんどそうでした。

なんか変わってきたかなぁ、と思ったのは、そこから更に半年くらい経った頃、現場の雰囲気や、私の性格に慣れてきた頃でしょうか。
途端にケアレスミスが減ったんですよね。

そこでようやく気づいたわけですよ。
「あ、この後輩は人間関係によってパフォーマンスが圧倒的に変わるタイプだ」ということと、同時に、「後輩は身内と判断した人に対しては徹底的に寛容だ」ということ。
うまくやっていける自信がない、と言っていた人とも、気が付けば二人で会話できる程度には仲良くなっていたし、自信が無いと言っていたのに、いつのまにか周囲を引っ張ろうとするだけの自信を備えていました。
後輩は「人間関係に慣れる」ことで仕事が習熟するタイプだったんですね。

いずれ、この会社を去る選択を取るということ

その後もしばらく後輩と仕事を続けてきて、「あ、この人はハケンと言う仕事には向かないかな」と確信するようになりました。
彼のスキルは誰の目にも分かるほどに、それこそずっと組んでた自分が感じるほどに、成長を見せつけてくれました。
主要因は、圧倒的に、「人間関係の慣れ」なんですよね。

私みたいな性格の上司なんて、多分イラつくと思うんですよ。私ならイラつきます。
現場の雰囲気も、アットホームではありますが、仕事に対してのスタンスは驚くほど厳しいんです。仕事になるとピリッとした空気になることも多いんです。
にも関わらず、彼は私みたいな気むずかしい上司にも、今の現場の空気にも「慣れる」ことができたわけです。

どうにも、彼はうちみたいな小さい会社で、様々な現場を転々とするのはあまりに勿体無い、と感じてしまんですよね。
多分うちのやり方では「人間関係に慣れる」前に力尽きてしまうんです。
スキルの向上に思考を切り替える前に納品し、撤退してしまう。
かと言って彼をずっと今の現場に縛ることは「うちの会社としては」マイナスにしかならない。
こういう後輩に、「新しい会社」や「新しい仕事」を準備できないっていうのは、ものすごく歯がゆいなぁ、と眺めています。

まぁ、私はその後輩とは九月で離れることになりましたが、次に一緒に仕事をする時は、彼がユーザー側のシステム部で、私が一介のハケンSE、みたいな関係になれば面白いかなぁ、と思うのでした。

*1:カタカナにしているのは厳密な派遣業務とは異なるため